子どもの「夢」づくりのための地域教育力・家庭教育力向上実践交流会 |
皆さんこんにちは。ご紹介いただきました中川です。よろしくお願いします。
私は、アトラクションとして劇団テアトロ天草朗読チームの方が朗読された「山の背比べ」の片方の山、「飯田山」が見える秋津町沼山津に生まれ育ちました。「山の背比べ」は、道徳の副読本小学校低学年編に載っています。
私は小さい頃、地域の古老からこの話をよく聞きました。私が聞いた内容と副読本に記されている内容には少し違いがあります。朗読では、金峰山と飯田山に樋を渡して、画図湖の水を汲み、樋に流したところ、飯田山の方へ流れたとありました。私が聞いていたのは、熊本市内の地理をご存じの方はお分かりと思いますが、熊本市民病院に行くとき、熊本市電の停留所に「神水(くわみず)」があります。ここから水をくみ上げて樋に流したら、ポトポトと水滴が流れ落ちてできたのが、「画図湖」、神様が水をくみ上げたところが「神水(くわみず)」でした。民話というのは、地域の語り部が語り継ぐものですから微妙に違いはありますが、ふるさとの宝物です。道徳の副読本「熊本の心」には、このような民話の他に、熊本の偉人の話があります。この副読本を県内の小中学校では活用していますが、そのとき、教材に関連する地域の方を是非お招きして欲しいと思います。地域の方と一緒に我が熊本のことを学習することで、郷土愛が生まれます。郷土を誇りに思う心が子どもたちに育っていきます。成人しても、自分が生まれ育った郷土で生活したいという気持ちを育てていきたい、いろんな都合で郷土を離れて生活するようになったとしても我が郷土を誇りに思う人を育てていきたいと思います。これが学校と地域と連携した教育の良さです。幼稚園児、保育園児も、低学年編は理解できると思います。読み聞かせでて欲しいと思います。是非ご活用ください。
本日は、レジュメを用意していますが、レジュメ通りではなく、とてもすばらしい3校の実践発表がありましたので、その発表を聞いての私の感想から先に話をさせていただきます。
本渡東小学校は教頭先生が放課後子ども教室についてご発表なさいました。研修会等で、これまで何度か、子ども教室の実践発表を聞きましたが、発表者は、放課後子ども教室のコーディネーターかボランティア指導者の方です。と言いますのも、この放課後子ども教室は、教育委員会の事業です。そこで、教育委員会にお任せのところもあります。にもかかわらず、校長・教頭先生、そして担当の先生が運営委委員になって子ども教室を運営されていることに敬意を表します。ご発表にもありましたように、子ども教室は、放課後、子どもたちの安心・安全居場所づくり、多様な体験、地域の方との触れ合い等をねらったものです。学習活動を始め、いろんな体験や地域の方との触れ合いが発表されました。子どもたちの活動の様子が見に浮かぶようでした。
本町小学校のコミュニティ・スクールの発表にありました農業体験の一つ、稲刈り、掛け乾しの体験活動の時に、私は本町小学校を訪問しました。子どもたちが稲刈り、掛け乾しを進んで行っている様子を見ました。活動が終わって、振興会長さんが子どもたちに尋ねられました。「稲刈り、掛け乾しをして、今年の稲穂は重かったね?軽かったね?」と。そして、「今年の稲は軽かったと思います。どこの田んぼも夏の日照不足の影響で実入りが少なかったようです。しかし、秋の天候が良かったので味はきっと良いと思います。12月の餅つきを楽しみにしておいてください。」と。気象現象が農業に及ぼす影響を簡潔に語られました。私はこれが、体験から学習へと発展することだと思います。まさに、学校と地域が一体となった教育が展開されていました。
龍ヶ岳小学校の発表は、中学校と一体となった龍ヶ岳版コミュニティ・スクールの実践でした。文部科学省のコミュニティ・スクールと熊本版コミュニティ・スクールの違いを少しだけお話ししておきます。レジュメの「学校・家庭・地域連携の仕組み作り」の「コミュニティ・スクール」を御覧ください。文部科学省のコミュニティ・スクールは、「地域教育行政の組織及び運営に関する法律」に基づき、市町村教育委員会規則により、市町村教育委員会が学校を指定します。指定された学校は、保護者や地域住民が参加する学校運営協議会を設置して、一定の権限と責任を持って学校運営に参画して、学校の様々な課題解決をはかる仕組みです。一方、熊本版コミュニティ・スクールは、法令等の縛りはなく、保護者や地域住民が学校課題を共有し、その解決や改善に向けて、共に話し合い、協力し、一体となって組織的かつ継続的に教育に当たる仕組みです。ですから、どこの学校でも熊本版コミュニティ・スクールとして、開かれた学校づくりの仕組みを整えることができます。ですから、龍ヶ岳版コミュニティ・スクールは、この仕組みを活用したものと思います。小学校と中学校が隣接しているという学校の立地の特性、地域の特性を活かして小中学校で組織されているところがすばらしいと思います。実践内容も、お聞きになったとおり多岐に亘って学校課題解決に小中学校、地域が一体となって取り組んでおられます。
「今、何故、学校・家庭・地域連携が必要か」ということですが、私は、次の3点から学校・家庭・地域連携が必要だと思っています。
第一は、「生きる力」は学校だけでは育めません。学校・家庭・地域社会の連携が必要であることです。
本日は、学校の先生方、行政の方、保護者の方がお出でです。先生方は十分ご存じのことですが、今学校は、子どもたちの「生きる力」の育成を目標として学校教育を展開しています。「生きる力」とは、簡単に言いますと、これまで言い表されていた、「知育・徳育・体育」のことです。このことをもっと具体的な言葉で示しています。「子どもたちが基礎・基本を確実に身に付け、いかに社会が変化しようと、自ら課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、行動し、よりよく問題を解決する資質や能力とともに、自らを律しつつ、他人とともに協調し、他人を思いやる心や感動する心などの豊かな人間性、たくましく生きるための健康や体力等。」ここに示してある力を学校だけで子どもに育もうとしてもできることではありません。地域と一体となって子育てに当たらねば望めないことです。そのためには、地域社会の教育力が必要です。
第二の理由は、地域社会の教育力を高めることです。地域の教育力が低下している指摘され久しいです。教育力とは、地域が支え合い、助け合い、つながり合うことだと思います。私は先ほど申しましたように、熊本市の秋津町で生まれ育ったのですが、私が小さい頃、悪さをすると、地域の人から、「そぎゃんこつすると、父ちゃんの泣かすぞ!」と言って注意されていました。善いことをすると、「あんたは幸平しゃん(祖父の名前)の孫だろ?じいちゃんの喜ばすぞ!」と言って褒めてもらっていました。私の近くにスーパーがあります。親子連れに合うと、幼児に「こんにちは、ママと一緒でいいね。」などと声をかけます。そんなとき、あいさつに反応する子に、「いつも言っているでしょうが。知らない人の声かけには返事するなって!」と言って子どもの手を引き、逃げるよう足早に立ち去る人がいます。「ほら、ごあいさつがあったらあなたもあいさつを返しなさい。」とおっしゃるお母さんもいます。地域のつながりを持とうと思っている方も多くなっています。その取組があちこちで行われています。私たちが社会生活をする上では、自助、共助、公助で、支え合い、助け合い、つながり合うことです。私は、これらを推進する力が地域社会の教育力だと思っています。
三つめの理由は、持続可能な社会づくりが今求められていることです。少子・高齢化、都市化、情報化等の経済・社会の変化による地域社会の人間関係の希薄化や市町村合併等による地域社会の弱体化等が散見されます。地域社会の基盤強化や再構築、社会の連帯の強化は、持続可能で活力ある国家を支える基盤です。ここ、天草の地では、市町村合併で2市1町となりました。学校の統廃合が進んでいます。全国では、現在1700強の地方公共団体があります。市町村を構成している集落の内、何も手を打たなければ2から30年後には、3桁に及ぶ集落が消滅するだろうとの推計もあるそうです。私は、昭和48年から4年間牛深小学校に勤務していました。当時、牛深の町は活気がありました。牛深の学校を訪問するとき、街中を歩きますと、シャッターが下りているところが多く、寂しい思いをします。持続可能な社会づくりの方策の一つが学校・家庭・地域が連携した教育活動です。私はこれを、「学校を核とした地域創生」と言っています。
つまり、次代を担う子どもたちの「生きる力」を社会全体で育むことや学校を核とした新たな地域創生が求められているのです。
私は、「人は、家庭で育ち、学校で学び、地域で伸びる」と思っています。
家庭は、全ての教育の原点です。基本的な生活習慣や生活能力、自制心や自立心、豊かな情操、他人に対する思いやり、基本的倫理観や正義感、社会的なマナー、学習に対する意欲や態度等の基礎を育む場です。先ほど、親の学びプログラムを体験しました。互いにアイデアを出し合い、子育ての役に立てようとの研修方法の一つです。家庭教育では、昔から「うそをつくな!ものを盗むな!無益な殺生をするな!」が3本の柱でした。私はこれに「五感を育め!」を付け加えています。それも外で自分の身体を通して育むことです。これが、「他人とともに協調し、他人を思いやる心や感動する心などの豊かな人間性」を育みます。
学校は、子どもたちの「生きる力」を育む重要な場です。子どもたちが「自立した一人の人間として力強く生きていくための総合的な力」を身に付けるために、生涯にわたって学習を継続できる力を育みます。
社会は、子どもたちが学校で学んだ知識・技能を生きて働く力へと変容させるとともに、他者との関係を築く力などの豊かな人間性を含む総合的な力を育む場です。「生きる力」の例を以前、高速道路での運転方法と一般道路での運転方法に例えて議論したことがありました。最近は、高速道路の運転は、逆送する車がいたり、車間距離をとらなかったり、スピードの出し過ぎがあったりと安心して運転できる状態ではなくなりましたが、一般道路での運転より運転が楽です。学校で学んで得た「生きる力」が、高速道路での運転状態だと言っていました。一般道路での運転では、人が歩いている、自転車が走る、道路脇に駐停車している車がある、信号がある、子どもが急に飛び出してくる、路地から車や自転車が飛び出してくるなど、いろんな情報をキャッチし、瞬時に判断し、安全運転に注意しなければなりません。一般道路での運転技術が、学校で学んだ生きる力を生きて働く力へと変容させるものだと言っていました。
連携の具体的事例は、先ほど3校の発表でいろいろありましたので、割愛します。
学校・家庭・地域が連携した学校教育活動を、ブームとして一過性のものにしてはならないと思います。これまで述べましたように今実践しておられる教育活動を、システム化して継続的・組織的・目的的に推進していくために、推進母体となる組織が必要となるのです。学校関係の組織はいろいろあります。また、地域にもいろんな組織があります。特に、ここ天草においては、小学校区ごと、あるいは中学校区ごとに地域振興会があります。このような組織を活用することも一つだろうと思います。また、学校評議員、民生児童委員、社会教育関係団体の人たちを中心に新しい組織を作ることもあるでしょう。要は、学校の課題を共有し、課題解決に向けた取組につながる組織とすることです。
これまでたくさんの学校を訪問しました。先生方やコーディネーター、ボランティアの方々とお話しをする中で、これは、「学校・家庭・地域連携推進にかかる名言」だと思うものをいくつか紹介します。
・「子どもの育ちの姿を地域に示さねば、地域からの信頼も学校応援も望めません。子どもの育ちを地域に見せることができるよう全職員で指導に当たっています。」
学校と家庭、地域が互いに信頼し合うことができなければこの活動は望めません。特に、中学校の職場体験活動の事業所探しはこの信頼がなければできるものではないと思います。本渡中学校では、100カ所以上の事業所で職場体験をするそうです。学校の姿が、子どもたちの育っている姿が見えなければ、そう簡単に引き受けてはもらえないと思います。学校の教育活動の様子が地域にも伝わっているからこそできるものです。
・「子どもたちは1年生の時から学校応援団の姿を見て育っています(ボランティアを生き方のモデルとしています)。本校では『掃除をしなさい』と注意したことはありません。掃除の仕方のアドバイスはしますが。」
子どもたちは、学校応援団の人を自分の生き方のモデルととらえています。ボランティアの姿を見て、自分たちが掃除をするのは当たり前と思っているのです。12月、上益城の学校で御船版コミュニティ・スクール実践発表会がありました。そのとき、学習支援ボランティアの方が、「給食で地区の農家の人が作った茄子を食べた子が、『自分は野菜が嫌いだった。でも、○○さんがつくった給食の茄子はおいしい。これからは野菜を食べるようにします。』と子どもから聞きました。とても嬉しくなりました。」言っておられました。これが、地域づくりにつながります。
・「子どもが感動した時の表情はきらきら輝いています。子どもは本物に接することで大きな感動を体験します。そこに学校応援団の意義があります。子どものためになる提案は拒みません。」
冒頭の、「山の背比べ」「ごんぎつね」朗読では、そのすばらしさで朗読の世界に引き込まれました。これが本物に触れることだと思います。朗読を聞く子どもたちも、朗読の世界に引き込まれていくと思います。少なくとも、私が読むのより劇団の方に読んでもらった方が何倍もの感動があります。
・「『私たちが演奏する音楽を聴いて喜んでくれる人がいる』と子どもたちが実感する機会を作ることは、子どもたちの学習意欲の向上につながるとともに、地域の人々の心のよりどころになります。」
天草の各学校では、地域とどうつながっていくか、地域の活性化に学校はどんなことができるか、など校長先生方は考えておられます。例えば、学習発表会を学校だけでなく、地域や施設に出かけて、出前学習発表会を企画したり、統合して学校がなくなった地域の田畑を利用しての農業体験、地域の人々との触れあい体験をしている学校もあります。これらは、学校を核とした地域創生の一つだと思います。
・「これまでの保護者や地域住民の方々による学校支援にとどまらず、子どもも先生方も積極的に 地域に出かけ、地域の活性化に貢献できるような双方向性のある関係になることを目指していま す。」
地域の方に学校においでいただくばかりでなく、先生方や子どもたちが地域に出かけて双方向の連携を行う学校が少しずつ増えてきました。そこで、提案していますのは、義務教育版公開講座です。大学や高校の専門的な公開講座ではなく、子どもと一緒に学ぶ機会を設けることです。例えば、授業参観。我が子や我が孫の学習ぶりはどうだろうかと子どもたちの学習を参観するものですが、これを参観ばかりではなく保護者や地域の人も学習に参加できる仕組みにすることです。人権学習、環境学習、福祉学習などいろんな分野で考えられると思います。天草のある学校では、社会福祉協議会主催の「認知症サポート事業」の一つとして6年生の子どもに認知症についての出前講座があるそうですが、これを地域の人にも参加を呼びかけたところ、学習に参加した人は子どもより地域の人が多かったそうです。そして、地域の方から、「認知症についてよく理解できた。これからもこのような学習に参加したい。」などの声が上がったそうです。これは、生涯学習社会における学校の役割の一つだと私は思います。
学校・家庭・地域が連携して、心豊かな子どもたちを育てていこうではありませんか。
「学校を核とした地域創生」へ戻る